2013年4月2日火曜日

Samsung製SSD「SSD 830」を試す。シーケンシャルアクセスとランダムライトが速く,価格対性能比は高い


SSD 830
メーカー:Samsung Electronics
問い合わせ先:
実勢価格:1万9500?2万3500円程度(256GB,※2012年6月30日現在),8800?1万1800円程度(128GB,※2012年6月30日現在)
 一昔前と比べると,SSDの普及はかなり進んでいる。容量こそHDDには太刀打ちできないものの,容量120?250GB程度の製品なら高スペックなものでも1?2万円台で購入できるようになってきたのが,おそらく大きいのだろう。今回とりあげるSamsung Electronics(以下,Samsung)製SSD「SSD 830」もその1つだ。
 アイ?オー?データ機器の子会社であるITGマーケティングがこの春に国内代理店となり,自作PC市場における本格的な展開が始まったSSD 830だが,そのポテンシャルはいかほどか。容量256GBモデルと128GBモデルの2モデルをITGマーケティングから入手したので,今回はそれらを使って,SSD 830の性能と,市場での立ち位置を探ってみることにしたい。


トリプルコアコントローラ「MCX」を採用

Toggle DDR NANDフラッシュメモリで転送速度を向上


 さて,いきなり結論めいたことからいうと,SSD 830は,ランダムアクセス性能に重きを置いた設計になっている。高速回転しているディスク(プラッタ)上にヘッドを走らせるようにしてアクセスするHDDと比べると,機械的な処理の入らないSSDのほうがランダムアクセス性能には優れているのだが,SSD 830では,その長所をさらに伸ばそうとしているわけだ。
 この「ランダムアクセス性能重視」というのは,最近のSSDにおけるトレンドでもあるので,SSD 830もその流れに乗った製品ということができるかもしれない。

上下段とも左が容量256GBモデル,右が容量128GBモデル。外観上の違いはない

カバーを取り外した状態の容量64GBモデル。基板をカバーで両サイドから覆う,2.5インチ型SSDによくある設計だと分かる
 まずは,肝心のコントローラを見ていきたいと思うが,7mm厚の2.5インチストレージデバイスとなるSSD 830には,ネジ穴などが用意されていない。現実問題として,カバーを取り外すのは相当に困難だ。ほとんどの場合,一般ユーザーが開けるのは不可能だろう。
 今回4Gamerでは,ITGマーケティングから,容量64GBモデルの“殻割りサンプル”を別途借りられたので,今回はそれを見ていくことになる。容量256GBモデルや128GBモデルと,基板の基本設計にそう大きな違いはないはずだが,確認できているわけではないので,この点はあらかじめお断りしておきたい。

容量64GBモデルの基板。メモリチップ4枚分の空きパターンがある

MCX(上,型番「S4LJ204X01-Y040」)と,容量256MBのキャッシュメモリ(下)。コントローラとキャッシュ,NANDフラッシュメモリがすべてSamsung製で完結している
Samsung製Togggle NANDフラッシュ「K9HDGY8U5B-HCK0」。20nmプロセス技術を用いて製造されている
 さて,肝心のコントローラだが,これはSamsungが独自設計を行った「MCX」が使われている。MCXは「ARM9」アーキテクチャに基づくCPUコアを3基搭載したプロセッサとなっており,Samsungの説明によれば,各コアが個別かつ同時にNANDフラッシュメモリへ対してアクセスできるようになっているという,ドラクエ10 RMT。そのため,1つのコアが順次アクセスを行う場合と比べてデータ処理の性能が向上しているというのがSamsungの主張だ。

 組み合わされるNANDフラッシュメモリはやはりSamsung製で,いわゆるToggle NAND(Toggle-Mode DDR NAND)タイプになっている。Toggle NANDは,従来型のNANDフラッシュメモリ(=SDR NAND)と異なり,クロックの立ち上がりだけでなく“立ち下がり”でもデータ転送を行うことで,理論上では従来型NANDに対して2倍の転送速度を実現するというのが特徴だ。DDR SDRAMの仕組みをNANDフラッシュに持ち込んだものという理解でいいだろう。

 Samsungによると,従来のNANDフラッシュメモリだと転送速度が66Mbpsのところ,Toggle NANDフラッシュメモリでは133Mbpsでデータ転送を行えるため,「1秒間に実行できる入出力数」を示すIOPS(Input/Output Per Second)はランダムリードで10%,ランダムライトで40%向上しているとのこと。これと先ほどのMCXとにより,公称スペックでは4KBブロックのランダムリード(ランダム4KリードIOPS)が最大80000と,Intel製SSD「Solid State Driver 520」(以下,SSD 520)の容量240GBモデルにおける60000IOPSを大きく上回ってきている。

製品ボックスの底面(背面)に書かれた,SSD 830の主なスペック
 一方,rmt,4KBブロックのランダムライト(ランダム4KライトIOPS)は,SSD 520の最大60000に対し,SSD 830は256GBモデルでも最大36000と,逆に大きく離されている。SSD 520ではデータ圧縮機能が有効になっているので,それが影響しているのだろう。
 データ圧縮機能の詳細はを参照してほしいが,データ圧縮が効かない局面だとSSD 520のランダムライト性能は最大16500IOPSとされているので,それと比べた場合はSSD 830のスペックのほうが高いとはいえる。

 というわけで,入手したSSD 830の容量256GBモデルと128GBモデル,そしてSSD 520の容量240GBモデルの主なスペックをまとめたものが表1だ。
 ここまであえて説明してこなかったが,SSD 830はSerial ATA 6Gbps対応で,もちろんNCQ(Native Command Queueing)もサポートしている。


Samsung SSD Magician
 なおSSD 830では,特定のブロックにアクセスが集中しないよう分散させることで製品寿命を延ばすウェアレベリングや,不必要となったブロックを自動的に開放するガベージコレクションアルゴリズムにも,専用のチューニングが施されているとのこと。とくにガベージコレクションアルゴリズムは,専用ユーティリティソフト「Samsung SSD Magician」から最適化を行えるようになっていたりする。
 ちなみにSamsung SSD Magicianからは,簡易的なベンチマークテストや,ファームウェアのアップデートなども行える。Windowsベースでファームウェアアップデートが行えるのは便利だ。

Samsung SSD Magicianの簡易ベンチマークモード「Performance Benchmark」(左)と,ガベージコレクションアルゴリズムの最適化ツールである「Performance Optimization」(右)


シーケンシャルが速いSSD 830

ランダムライトもSSD 520を上回る場面が


Rampage IV Extreme
ゲーマー向けのX79マザーボード
メーカー:
問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) info@tekwind.co.jp
実勢価格:4万?4万5000円程度(2012年6月30日現在)
 テストのセットアップに入ろう。
 用いるSSDは前述のとおりだが,いずれも貸出品(※SSD 520はインテルから借りたもの)なので,どれくらい使われたものなのか判断できない。そこで,いずれもLinuxマシンでSecure Eraseを実施してからテストを行うことにしている。
 SSDのファームウェアは,テスト時の最新版だ。具体的に述べると,SSD 830は「CXM03B1Q」,SSD 520は「400i」となる。

 そのほかテスト環境は表2のとおり。SSDは,ASUSTeK Computer製の「Intel X79 Express」マザーボード「Rampage IV Extreme」にある,チップセット側のSerial ATA 6Gbpsポートと接続した。


 ではまず,定番のストレージベンチマーク「CrystalDiskMark」(Version 3.0.1c)の結果から見て行こう。
 下に示したのはテストサイズ「1000MB」で実行したものだ。


 シーケンシャルアクセスのスコアである「Seq」は,リード,ライトともにSSD 830がSSD 520を上回るが,おそらくこれは,Toggle NANDフラッシュメモリが奏功したものだろう。Toggle NANDフラッシュメモリにより転送速度が向上した結果,連続したデータを読み込んだり,書き込んだりする場合に,アドバンテージが生まれたのだと思われる。
 SSD 830同士で比較すると,256GBモデルと128GBモデルでシーケンシャルライト性能に大きな違いが生じている。Samsungの示すスペックどおりの結果が出ているわけだ。

 ランダムアクセス性能は,ブロックサイズ512KBで,リードだとSSD 520,ライトはSSD 830がそれぞれ比較対象を上回った。SSD 520の「リードが速く,ライトは遅め」という傾向はでも見られたものだ。それに対し,SSD 830は,リード,ライトとも同程度の性能を発揮できているのが見どころといえそうである。ライトではSSD 830の2モデルでスコア差が生じている点も押さえておきたい。
 一方,ブロックサイズ4KBではリード,ライトともにSSD 520が優勢。より大きなデータになると,SSD 520に分がある。SSD 830の2モデルにスコア差はほとんどついていない。

 NCQの性能を測る4K QD32だと,リードではSSD 830が,ライトではSSD 520がそれぞれ高いスコアを示した。
 NCQによってIOPSが向上するため,IOPSが大きいということはそれだけNCQが効くことになる。そこで表1を見直すと,ランダム4KリードはSSD 830が,ランダム4KライトはSSD 520が高い数値となっているので,このテスト結果はスペックを反映したものと言ってよさそうだ。

 次に,データサイズを4000MBに増やしたときの結果は下に示したとおり。ここでは,SSD 520が高いスコアとなっている。大容量のデータを読み書きする場面では,シーケンシャルとランダムを問わず,SSD 520に一日の長があるということになるだろう。


 続いては,Windowsアプリケーションを用いたときの性能を測定できるベンチマークソフト「PCMark 7」の総合スコアと,ストレージ関連の「System Storage Score」のスコアだ。グラフ1を観てみると,SSD 830は,容量256GBモデル,128GBモデルとも,SSD 520の容量240GBモデルに届いていない。


 グラフ2は,System Storageのスイートから,MMORPG「World of Warcraft」を用いた「Gaming」テストの結果を抜き出したものだ。
 テストは「Gaming 1」「Gaming 2」「Gaming 3」の3つで,Futuremarkはいずれにおいてもランダムアクセスが主体と説明しているが,ここでもSSD 520のほうが高いスコアを示している。ただ,SSD 830との差は最大でも4%未満なので,性能の違いはそれほど大きくないと見ることも不可能ではない。


 SSD導入を導入するメリットの1つには,Windows起動時間の短縮が挙げられる。そこで,Windows 7向けの開発キット「Windows 7 Software Development Kit」に含まれている「xbootmgr」を用いて,ブート時の性能ログを取り,それを「Windows Performance Analizer」から見てみることにしよう。
 下に掲載したグラフ画像において,横軸は秒単位の経過時間,0がWindowsの起動プロセス開始時点(=BIOSのPOST終了時点)となる。上ペインの縦軸は時間あたりのディスクI/O数で,赤が読み出し,青色が書き込みとなっている。下ペインは縦軸がディスク使用率だ。

 いずれにおいても10秒後以降は,筆者がログインパスワードを入力してログインした後,xbootmgrの記録終了を指示するまでの処理が記録されたものになるので無視してほしい。
 Windowsの起動プロセスは,ログイン画面が表示された時点で一段落するのだが,ご覧のとおり,アクセスの傾向は異なるものの,SSD 830の容量256GBモデルとSSD 520の容量240GBモデルはいずれも8秒で済んでいることが分かる。SSD 830の容量128GBモデルは8.5秒かかっているので,若干遅いといえば遅いが,体感できるかといえば微妙だろう。

SSD 830(256GB)のテスト結果
SSD 830(128GB)のテスト結果
SSD 520(240GB)のテスト結果

 最後に,SSD 830の消費電力を確認してみよう。今回は,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,CrystalDiskMarkとPCMark 7のSystem Storage Suiteを実行し,それぞれ最も高くなった時点を「CrystalDiskMark実行時」「PCMark 7実行時」とする。そして,各時点におけるシステム全体の消費電力値を,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」から取得することしている。

 その結果はグラフ3のとおりで,アイドル時とCrystalDiskMark実行時だと3者に大きな違いはなし。ただし,NANDフラッシュメモリへのランダムアクセスが頻発しているであろうPCMark 7実行時だけは,SSD 830がSSD 520より約10W低い値を示した。20nmプロセス技術を採用して製造されるNANDフラッシュメモリを搭載したメリットが,ランダムアクセスが続くと出るということなのかもしれない。
 もちろん,コントローラを含めた総合的な違いが出た可能性もある。



価格の割に満足度が高いSSD 830

128GBモデルなら1万円程度で手に入る


 ショップ関係者に話を聞くと,SSD 520はもちろんのこと,Philips&Lite-On Digital Solutions(Plextorブランド)の「M3 Pro」や,Micron Technologyの「Crucial m4」といった製品の影に隠れ,SSD 830の人気はあまりないとのことだ。ただ,性能はSSD 520と同程度といってよく,しかも2012年6月30日時点の実勢価格で比較すると,


    製品ボックス
    といった具合なので,むしろ,価格対性能比を重視した場合,十分選択肢になると述べていいのではなかろうか。SSD 830の製品ボックスには,3.5インチドライブベイに取り付けるためのマウンタなどが付属するデスクトップPC向けキットと,“9mm厚化”するスペーサーや“USB接続デバイス化”アダプタの付属するノートPC向けキットなども用意されているが,付属品を省略したモデルであれば,128GBモデルが1万円以下から購入できるというのは見逃せないところだ。

     初期のイメージから,安価なSSDに対して「安かろう悪かろう」と考えている人も少なくないと思われるが,SSD 830なら安価でもきっちりと性能を発揮できる。その点は憶えておいて損はないだろう。


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