アイ?オー?データ機器の子会社であるITGマーケティングがこの春に国内代理店となり,自作PC市場における本格的な展開が始まったSSD 830だが,そのポテンシャルはいかほどか。容量256GBモデルと128GBモデルの2モデルをITGマーケティングから入手したので,今回はそれらを使って,SSD 830の性能と,市場での立ち位置を探ってみることにしたい。
トリプルコアコントローラ「MCX」を採用
Toggle DDR NANDフラッシュメモリで転送速度を向上
さて,いきなり結論めいたことからいうと,SSD 830は,ランダムアクセス性能に重きを置いた設計になっている。高速回転しているディスク(プラッタ)上にヘッドを走らせるようにしてアクセスするHDDと比べると,機械的な処理の入らないSSDのほうがランダムアクセス性能には優れているのだが,SSD 830では,その長所をさらに伸ばそうとしているわけだ。
この「ランダムアクセス性能重視」というのは,最近のSSDにおけるトレンドでもあるので,SSD 830もその流れに乗った製品ということができるかもしれない。
今回4Gamerでは,ITGマーケティングから,容量64GBモデルの“殻割りサンプル”を別途借りられたので,今回はそれを見ていくことになる。容量256GBモデルや128GBモデルと,基板の基本設計にそう大きな違いはないはずだが,確認できているわけではないので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
MCX(上,型番「S4LJ204X01-Y040」)と,容量256MBのキャッシュメモリ(下)。コントローラとキャッシュ,NANDフラッシュメモリがすべてSamsung製で完結している |
Samsung製Togggle NANDフラッシュ「K9HDGY8U5B-HCK0」。20nmプロセス技術を用いて製造されている |
組み合わされるNANDフラッシュメモリはやはりSamsung製で,いわゆるToggle NAND(Toggle-Mode DDR NAND)タイプになっている。Toggle NANDは,従来型のNANDフラッシュメモリ(=SDR NAND)と異なり,クロックの立ち上がりだけでなく“立ち下がり”でもデータ転送を行うことで,理論上では従来型NANDに対して2倍の転送速度を実現するというのが特徴だ。DDR SDRAMの仕組みをNANDフラッシュに持ち込んだものという理解でいいだろう。
Samsungによると,従来のNANDフラッシュメモリだと転送速度が66Mbpsのところ,Toggle NANDフラッシュメモリでは133Mbpsでデータ転送を行えるため,「1秒間に実行できる入出力数」を示すIOPS(Input/Output Per Second)はランダムリードで10%,ランダムライトで40%向上しているとのこと。これと先ほどのMCXとにより,公称スペックでは4KBブロックのランダムリード(ランダム4KリードIOPS)が最大80000と,Intel製SSD「Solid State Driver 520」(以下,SSD 520)の容量240GBモデルにおける60000IOPSを大きく上回ってきている。
データ圧縮機能の詳細はを参照してほしいが,データ圧縮が効かない局面だとSSD 520のランダムライト性能は最大16500IOPSとされているので,それと比べた場合はSSD 830のスペックのほうが高いとはいえる。
というわけで,入手したSSD 830の容量256GBモデルと128GBモデル,そしてSSD 520の容量240GBモデルの主なスペックをまとめたものが表1だ。
ここまであえて説明してこなかったが,SSD 830はSerial ATA 6Gbps対応で,もちろんNCQ(Native Command Queueing)もサポートしている。
ちなみにSamsung SSD Magicianからは,簡易的なベンチマークテストや,ファームウェアのアップデートなども行える。Windowsベースでファームウェアアップデートが行えるのは便利だ。
シーケンシャルが速いSSD 830
ランダムライトもSSD 520を上回る場面が
用いるSSDは前述のとおりだが,いずれも貸出品(※SSD 520はインテルから借りたもの)なので,どれくらい使われたものなのか判断できない。そこで,いずれもLinuxマシンでSecure Eraseを実施してからテストを行うことにしている。
SSDのファームウェアは,テスト時の最新版だ。具体的に述べると,SSD 830は「CXM03B1Q」,SSD 520は「400i」となる。
そのほかテスト環境は表2のとおり。SSDは,ASUSTeK Computer製の「Intel X79 Express」マザーボード「Rampage IV Extreme」にある,チップセット側のSerial ATA 6Gbpsポートと接続した。
ではまず,定番のストレージベンチマーク「CrystalDiskMark」(Version 3.0.1c)の結果から見て行こう。
下に示したのはテストサイズ「1000MB」で実行したものだ。
シーケンシャルアクセスのスコアである「Seq」は,リード,ライトともにSSD 830がSSD 520を上回るが,おそらくこれは,Toggle NANDフラッシュメモリが奏功したものだろう。Toggle NANDフラッシュメモリにより転送速度が向上した結果,連続したデータを読み込んだり,書き込んだりする場合に,アドバンテージが生まれたのだと思われる。
SSD 830同士で比較すると,256GBモデルと128GBモデルでシーケンシャルライト性能に大きな違いが生じている。Samsungの示すスペックどおりの結果が出ているわけだ。
ランダムアクセス性能は,ブロックサイズ512KBで,リードだとSSD 520,ライトはSSD 830がそれぞれ比較対象を上回った。SSD 520の「リードが速く,ライトは遅め」という傾向はでも見られたものだ。それに対し,SSD 830は,リード,ライトとも同程度の性能を発揮できているのが見どころといえそうである。ライトではSSD 830の2モデルでスコア差が生じている点も押さえておきたい。
一方,ブロックサイズ4KBではリード,ライトともにSSD 520が優勢。より大きなデータになると,SSD 520に分がある。SSD 830の2モデルにスコア差はほとんどついていない。
NCQの性能を測る4K QD32だと,リードではSSD 830が,ライトではSSD 520がそれぞれ高いスコアを示した。
NCQによってIOPSが向上するため,IOPSが大きいということはそれだけNCQが効くことになる。そこで表1を見直すと,ランダム4KリードはSSD 830が,ランダム4KライトはSSD 520が高い数値となっているので,このテスト結果はスペックを反映したものと言ってよさそうだ。
次に,データサイズを4000MBに増やしたときの結果は下に示したとおり。ここでは,SSD 520が高いスコアとなっている。大容量のデータを読み書きする場面では,シーケンシャルとランダムを問わず,SSD 520に一日の長があるということになるだろう。
続いては,Windowsアプリケーションを用いたときの性能を測定できるベンチマークソフト「PCMark 7」の総合スコアと,ストレージ関連の「System Storage Score」のスコアだ。グラフ1を観てみると,SSD 830は,容量256GBモデル,128GBモデルとも,SSD 520の容量240GBモデルに届いていない。
グラフ2は,System Storageのスイートから,MMORPG「World of Warcraft」を用いた「Gaming」テストの結果を抜き出したものだ。
テストは「Gaming 1」「Gaming 2」「Gaming 3」の3つで,Futuremarkはいずれにおいてもランダムアクセスが主体と説明しているが,ここでもSSD 520のほうが高いスコアを示している。ただ,SSD 830との差は最大でも4%未満なので,性能の違いはそれほど大きくないと見ることも不可能ではない。
SSD導入を導入するメリットの1つには,Windows起動時間の短縮が挙げられる。そこで,Windows 7向けの開発キット「Windows 7 Software Development Kit」に含まれている「xbootmgr」を用いて,ブート時の性能ログを取り,それを「Windows Performance Analizer」から見てみることにしよう。
下に掲載したグラフ画像において,横軸は秒単位の経過時間,0がWindowsの起動プロセス開始時点(=BIOSのPOST終了時点)となる。上ペインの縦軸は時間あたりのディスクI/O数で,赤が読み出し,青色が書き込みとなっている。下ペインは縦軸がディスク使用率だ。
いずれにおいても10秒後以降は,筆者がログインパスワードを入力してログインした後,xbootmgrの記録終了を指示するまでの処理が記録されたものになるので無視してほしい。
Windowsの起動プロセスは,ログイン画面が表示された時点で一段落するのだが,ご覧のとおり,アクセスの傾向は異なるものの,SSD 830の容量256GBモデルとSSD 520の容量240GBモデルはいずれも8秒で済んでいることが分かる。SSD 830の容量128GBモデルは8.5秒かかっているので,若干遅いといえば遅いが,体感できるかといえば微妙だろう。
SSD 830(256GB)のテスト結果 |
SSD 830(128GB)のテスト結果 |
SSD 520(240GB)のテスト結果 |
最後に,SSD 830の消費電力を確認してみよう。今回は,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,CrystalDiskMarkとPCMark 7のSystem Storage Suiteを実行し,それぞれ最も高くなった時点を「CrystalDiskMark実行時」「PCMark 7実行時」とする。そして,各時点におけるシステム全体の消費電力値を,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」から取得することしている。
その結果はグラフ3のとおりで,アイドル時とCrystalDiskMark実行時だと3者に大きな違いはなし。ただし,NANDフラッシュメモリへのランダムアクセスが頻発しているであろうPCMark 7実行時だけは,SSD 830がSSD 520より約10W低い値を示した。20nmプロセス技術を採用して製造されるNANDフラッシュメモリを搭載したメリットが,ランダムアクセスが続くと出るということなのかもしれない。
もちろん,コントローラを含めた総合的な違いが出た可能性もある。
価格の割に満足度が高いSSD 830
128GBモデルなら1万円程度で手に入る
ショップ関係者に話を聞くと,SSD 520はもちろんのこと,Philips&Lite-On Digital Solutions(Plextorブランド)の「M3 Pro」や,Micron Technologyの「Crucial m4」といった製品の影に隠れ,SSD 830の人気はあまりないとのことだ。ただ,性能はSSD 520と同程度といってよく,しかも2012年6月30日時点の実勢価格で比較すると,
初期のイメージから,安価なSSDに対して「安かろう悪かろう」と考えている人も少なくないと思われるが,SSD 830なら安価でもきっちりと性能を発揮できる。その点は憶えておいて損はないだろう。
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